新日本1・21横浜アリーナで武藤敬司が「オマエに決めた！」と引退試合の対戦相手を内藤哲也に指名した翌22日、化身のグレート・ムタがラストマッチで両足ハムストリングを肉離れ。23日の診断結果は「全治6週間」。一時は「今のままだと試合できない」という心理状況だった。なぜ最後までプロレスの神様は試練を与えるのだろうか。

引退試合の舞台は東京ドームに決まっている。当然、延期はできない。大会はNOAHが総力を結集させて、SNSを中心にあらゆる手段を使って盛り上げているし、清宮海斗vsオカダ・カズチカを筆頭にほかのカードも注目度を高めている。

そんな周囲の盛り上がりは、負傷の回復具合が思わしくなかった武藤にとってプレッシャーになっていた。「38年間のプロレス人生の中で非常に追い込まれた」のは事実。だが、最後の試練もギリギリ乗り越え…いや、それさえも引退を彩る物語に加え、前日会見で「レスラーっていうのはヒーロー、スーパーマンじゃなきゃいけない。もう大丈夫です」とあっけらかんと言ってしまうところが天才たる由縁だ。

実際に東京ドームに集まった3万96人の大観衆が巻き起こす「ムトー」コールに応えながら、時折、小走りでリングに威風堂々と向かう姿は、両足ハムストリング肉離れに対する心配なんて微塵も感じさせない。誰もが期待していたカッコイイ武藤が引退試合に間に合った！（井上）